隔世の感がある医療の取り組み方・意識の今昔
医療用ウィッグの存在が知れわたっていなかったころは、市販の一般用ウィッグを被ったり、バンダナやニット帽を被ったりして脱毛した頭を隠すしかなかった。そのころのウィッグはひどい品質で、人工毛の安物しかなかった。
ウィッグを被っているのは丸わかりで、「あの人はハゲだ」、「きっと病気で脱毛したのだろう、可愛そうに」と、そのような目で受け止められていた。ガンの専門医・担当医でさえ、自分が責任をもつのは治療中だけで、自宅待機の段階に入ると定期検診に呼ばれるだけだった。
しかしそのような時代からすると、現代は隔世の感がある。患者はいつでも病院のサポートプログラムを受けることができ、訪問看護も充実している。地域医療のネットワーク化がすすみ充実して、ガンになっても孤立死することがない。ガンに対する人々の理解もすすんだ。
有り難いのは医療用ウィッグという専門のウィッグまでできたことだ。軽くて、蒸れないしズレにくい、通販を使えば3万円~8万円程度で、かなりのグレードの医療用ウィッグを買うことができる。
医療現場ではいま、ガン患者であっても加療がすめば早期の退院を促すようになった。そして、リハビリや散歩、社会活動への参加など、できるだけ日常と近いところで身体を動かし社会復帰できるような方針に切り替えられている。
もしも現代の世に医療用ウィッグがなかったら
早期の退院を促されても、女性の場合は、ガンだ、脱毛した、禿げたといって、開き直って自宅周辺を歩くことはむずかしい。男性と違って、女性には隣近所というコミュニティがある。一時的なものであっても、病気で新しい自分になった姿を、ごく親しいご近所の方々に披露する準備が必要になる。
バンダナやニット帽では病人の延長になってしまう。できれば無理をしてでも、社会復帰間近の元気な姿をみせたい。そういう外見をつくってくれるのも医療用ウィッグであり、機能性も一般用よりはるかに高いから、安心して歩行できる。頭上でウィッグがズレてあわてることはまずない。
医療用ウィッグがあるからこそ将来が開ける
- ご近所には見栄を張ってでも元気な自分をみせて、新しい自分とこれからをアピールしたい。その力となるのが医療用ウィッグ。
- 病人だ、病み上がりだと言われたくない。ご近所にはウィッグだとバレても、元通りの自分に接するように関係をもって欲しい。医療用ウィッグがあれば可能だ。
- 自分に自信をもちたい。やる気が出たとき、すぐに行動に起こしたい。そういうタイミングを逃さず後押ししてくれるのが医療用ウィッグ。
- 専業主婦にだって、パートやアルバイトなど、正社員でなくても働く場所がある。職場復帰しようと考えられるのは、医療用ウィッグがあるから。
在宅の患者にとって一番大事なことは、新しい自分に白い目を向けられることなく、ごく普通の精神状態で、平穏に暮らせる日常の舞台を取り戻すことだ。医療用ウィッグがなかったら、外出する気にはなれない。閉じこもって心身は衰弱する方向にむかう。そういう負のスパイラルに陥ってしまう女性が多くいるに違いない。