あの段ボールは、ウチのモデルが被るウィッグ

実際にその業界に携わってみると、ビックリすることがいくつも出てきたりします。私はファッションモデルの会社の経理に応募して、その面接先で業界の真相というのを知りました。真相というほど大げさではありませんが、そのモデルクラブでは、モデルさん着用のウィッグは、すべて医療用で通しているということでした。

面接に行ったその日、ちょうどその医療用ウィッグのメーカーのネーミングの入った段ボールの箱がいくつも宅配されてきて、事務の人が忙しく対応していました。「あの段ボール箱は何ですか?」と聞くと、「ウチのモデルが被るウィッグよ」と言うのです。ウィッグに興味があるのかと聞き返されたので、自分も昔はモデルを志望していた時期があってというと、「モデルは着脱が簡単で激しい動きにも耐えられる、ズレない・ムレない製品がいちばん大事なの」、といろいろ聞かせてくれました。

ついでに、あのウィッグって医療用ですよねと理由を聞いてみると、「通気性が良くて、着け心地が良くて、ヘアの長さやカールの状態など、いろいろな注文に応じてくれるのは医療用なのよ。コストもぜんぜん違うの」と。実は私もかつて医療用ウィッグのお世話になったことがあって、その時に味わった着け心地の良さにビックリしたのを覚えていました。医療用だからって特別にゴツイとかプロテクターのような余分な機能がついているわけではなく、ごく普通でむしろ違和感のなさや軽さでは、過去に被ったことのあるファッション用とは比べものにならないほどでした。

対応も仕上がりも一流。プロが認めるプロの製品

「へえー、私の感覚ってやっぱり間違ってなかったんだ」、そう思うと少しうれしかったです。多くのモデルクラブでもそうしているそうで、いわゆる医療用ウィッグは、業界の常識となっていました。へんな話ですが、そんな話題で面接担当者の人と打ち解けてしまったこともあり、面接はとてもうまくいきました。(もちろん自分の経理のスキルや経験も買われて)、それから1年以上が経過していますが、いまでは私がその医療用のウィッグの発注担当も任されるようになりました。

モデルさんが出演するショーのコスチュームの1つとして単品で発注していますが、大がかりなイベントのときには数十人のモデルさんをオーディションして、その分の製品を一括で大量発注することもあります。スタイリストさんが何人かやってきて、その場で調整するほか、時間や日程に余裕のある場合は、ウィッグのメーカーさんのほうで調整してもらったりもします。

経理としては、送料も調整料も無料なのでとても助かっています。融通がきいて対応が早くて、調整後に送られてくる製品は、すべてバッチリの出来です。たかが一時的なショーでしか着けないウィッグですが、さすが、プロが認めるプロの製品という感じがします。