もっとも対応の良かった“熱い会社”を選択

ファッション用のウィッグとは別に、医療用のウィッグがあることは、一般にもだいぶ認知されるようになりました。私が入院していた病院には、医療用ウィッグのメーカーさんが実際に出張販売のようにして出向いてきていて、普通のウィッグとの違いや着け心地を一生懸命に説明していました。

その時の私は抗がん剤治療を開始するかどうか、医師の判断も決まっていなかったので気にも留めませんでしたが、販売担当者の熱っぽく語る姿だけは妙に頭にこびりついています。「脱毛で苦しんだり辛い思いをしたりしている方の気持ちを、少しでも和らげることができたら」といった何でもない言葉が、その担当者の本心として伝わってきたように記憶しています。

「人生には、何でもないことを見逃しながら通り越して、ずいぶん損をしていることがあるな」と、私はその当時のシーンを思い起こしながら1人で苦笑しています。一家の都合で他県に引っ越した後、半年ほど経って“医療用ウィッグが必要な身”になりました。看護師さんに確認したところ、転院した病院にはウィッグの出張販売のような催事はなかったので、仕方なくネットで検索して調べることにしました。

抗がん剤治療を1週間後に控えていたので、少し緊張と恐怖感があり、いまのうちにウィッグを手配しておかなければという焦りもありました。通販で購入できる会社はかなりあって、そのうちの数社から“もっとも対応の良かった熱い会社”を選択しました。あのときに聞いた、出張販売の担当者のウソのない情熱がヒントになりました。

本題よりも、これから起こることの不安を相談

抗がん剤治療も初めてなら、これから起こる脱毛も初体験、それに吐き気やめまいなど、副作用についても未経験です。医療用ウィッグの通販会社に問い合わせをした私は、気がつくと電話口で応対してくれた女性に、そんな不安感をめいっぱい喋っていました。医療の現場で働く看護師ではなく、相手は医療用ウィッグのお客様担当というだけなのに申し訳ないことをしました。しかしなぜそんなに喋ってしまったかというと、“担当の方が、ただ黙って、やさしく相づちを打ちながら聞いてくれたから”でもあります。自分勝手に気づいたとき、私は初めてウィッグの機能面や着け心地、メンテナンスや価格について質問をはじめました。相手の方は、ようやくこれで本題に入れると思ったでしょうね(笑い)。

抗がん剤治療での副作用の出方は人によってマチマチなのだそうです。「ウィッグは日数が経ってからでも試着・修正(無料アレンジ)ができますので、とりあえずお手元にお届けしておきましょう。

治療が終わって必要がないと判断したときは、送り返していただければ結構です。返送料も弊社で負担いたしますので。とりあえず試着をされてみてください」、そんなやり取りで終わったと思います。やはり、それ一筋に打ち込んでいる信念のある人は、モノづくりにかける情熱が伝わってくるものです。お顔も拝見してはいませんが、なんだか強力な応援者を得たようで心強かったです。治療後、その方にまた連絡をする日を楽しみにしています。