医療がどんなに高度化しても、補えないものがある

人間とロボットの共存をテーマにあざらしのぬいぐるみの形をしたロボットを開発した日本人の研究者が、これを医療用ロボットとして厚生労働省に申請したところ、にべもなく却下されたというニュースがありました。仕方なくこのぬいぐるみロボットを米国に持ち込んだところ即座に認められ、いまでは日本に逆輸入されているそうです。ぬいぐるみは、撫でてあげると喜びを動作や鳴き声で表すなど、その愛くるしい姿と表情が患者たちのあいだで大人気。活躍するのは医療現場のリハビリセンターや認知症患者を専門にした介護施設など。症状の改善にめざましい成果をあげています。

医療先進国の米国では、このようなロボットの存在を認め、10年近く前から積極的な研究と実践が繰り返されています。医療用ウィッグの話とは距離があるように感じるかも知れませんが、もともと医療というのは、病気の回復を助ける学術の一部であって、先進国では医療だけを絶対視していません。ウィッグでもロボットでも、患者の回復の一助となるものであれば、積極的に受け入れて行こうという合理的な考えがあります。セラピーというメンタルな領域と医療を結びつけたのも米国です。患者のストレスや病気の一端となっている精神世界に分け入って、患者本人の悩みを聞き癒すという行為が、絶大な効果をもっていることも証明されています。

医療にとって、ウィッグは不可欠なメンタルツール

それでは、医療の現場における医療用ウィッグは、果たして患者にどのような効果をもたらしているのでしょうか。抗がん剤治療の副作用で脱毛してしまった患者の頭部を、隠すだけがウィッグの効果でしょうか。決してそのような即物的な存在ではないはずです。ウィッグを着用することで闘病期間に起こりがちな引きこもりを防止し、患者の外出欲を高めて運動機能の低下を抑制します。ウィッグを被ることで、それまでには想像もしていなかった新しい自分を鏡の中に見出し、もはや医療用という領域を超えて、入院前の健常期を凌ぐ新しい道に踏み出した女性もいます。院内であっても、ウィッグを被れば着ているものに目が行き、口紅や頬紅などで自分の美しさを導き出そうとします。 どのケースも医療用ウィッグが核となって起こる人間の自然な回復意欲です。医学・医療・医術というだけでは、人間の精神性をここまで高めることはできません。「たかが医療用ウィッグ、脱毛隠し」と思う人もいるかも知れませんが、もはや医療にとってウィッグは、必要不可欠なメンタルツールになっています。日本人医師の中にも、医療用ウィッグの存在に注目する人たちが増えてきました。医療とウィッグは、ロボットの存在以上に身近にあって、女性の心身をサポートするツールであることに間違いはないのです。