脱毛するのは当たり前なのにケアがない。

私自身の体験談になってしまいますが、私はこれまでに別々の病院で三度の入退院をし、同じ病院を数に入れると5回の病院生活を経験したことになります。いずれも癌の転移で抗がん剤の治療が必要になり、より専門性の高い医療機関への転院を余儀なくされてきたからです。

率直に言って、そこで体験して思ったことは、「病院は患者の脱毛症状には何のケアもしてくれない」ということでした。執刀医や担当の医師は癌を治療するのが本業ですが、そうとは言え、「医療と脱毛の副作用=ウィッグ」というのは密接なつながりがあるはずなのに、何のインフォメーションもありませんでした。

相談室とかカウンセリングルームなどがあって、こちらから相談に行くとアドバイスはしてくれますが、たとえば医療用ウィッグの推奨するメーカーを教えてくれたり、業者にコンタクトをとってくれたりといったことは皆無でした。

抗がん剤治療をすれば脱毛するのは当たり前という前提があるのに、積極的になってくれないのはなぜでしょうか。私は義手や義足、ヘッドギアなどの保護製品と同じレベルで、もっと医療用ウィッグの推奨や取り組みにも力を入れるべきだと考えています。そうすればウィッグメーカーも、医療機関と連携して現場のニーズ(患者)を吸い上げ、より高度でハイテクな製品をつくるようになるのではないでしょうか。

素晴らしい製品との出会いが疑問を生んだ。

病室で一緒になった“癌友(がんとも)”と、そんな話をしていたら、その友人が「九州の佐世保には、医療用ウィッグについて熱心に取り組んでいる総合病がある」ということを教えてくれました。

彼女は佐世保の出身で、東京に仕事や家族がなければ、その病院に入ってもいいと思っていたと言うのです。何でもその病院では、毎月1回のペースで医療用ウィッグの展示会を行っているそうです。しかも患者や家族が直接問い合わせできるようになっており、急な試着の要望にも対応してもらえるように、地元市内に拠点のあるウィッグメーカーと連携しているのだそうです。

地元の美容師さんが立ち上げた毛髪のケアと社会復帰をサポートする会もあるそうで、とても共感できました。

私が客観的にこのようなことを言えるのは、アンベリールの「シルフィ」という医療用ウィッグを手にすることができたからです。通販で取り寄せ、はじめて装着したときのフィット感の良さ、医療用ならではの裏地の工夫や汗をかいてもムレない工夫、カットやカールなどのアレンジに無料で応じてくれることなど、ファッションで楽しんでつけるウィッグとは違った多くの工夫であふれています。

しかも電話の係の人の対応が素晴らしく、押しつけや売り付けがなく、装着感などを静かに聞き取ってくれ、こちらからのアレンジの注文に丁寧に応えてくれました。こんなウィッグを医療機関で取り上げてくれたら、私のような患者はどれだけ救われるでしょうか。