「医療・治療、仕事の両立」が今後の施策の課題に

がん患者を対象に、国立がん研究センターによる2万2000人規模のアンケートが実施された。アンケートの内容は、「治療や生活の様子を尋ねる」というものだった。この規模はこれまでにない最大のもの。全国に向けて行なわれた。結果は日本政府のがん対策に反映させるという。

前回行なわれた2015年の調査に次いで2回目となるこのアンケートは、前回より対象を約8000人増やしている。全国のがん診療連携拠点病院などから、過去に治療を受けたがん患者を無作為抽出し、質問用紙を郵送するというもの。治療の様子だけではなく、生活の様子までを聞くところに意味があるらしい。

  • がんの種類や進行度などの基本情報。
  • 治療法の選択に対して必要な説明が得られたか。
  • 初診から診断がつくまでに、どれくらい時間がかかったか。
  • ピアサポート(仲間による支援)を受けたか。
  • 通院しながら薬で治療する患者に対しての、仕事と治療の両立について。
  • 会社の勤務実態、時短制度の活用など周囲の配慮。

すでにこのアンケートから得られた回答結果は、国立がん研究センターで集計され公表されている。今後の国のがん対策推進基本計画の評価や施策づくりに生かされていくという。先にも紹介したが、がんは不治の病ではなくなり、種類によっては内視鏡による切除で終わり、数日後には仕事の現場に復帰している事例もある。

がんの研究が加速度的に進んでいる今日、“医療と仕事の両立”という課題が大きくなり、今後は多くの患者がそれに直面していくことになるだろう。治療・投薬、経過観察、医療連携を含め、医療が患者に対してどこまでコミットしていくべきなのか、境目を設けないまま当面は成り行きに任せるのかも焦点になりそうだ。

女性の視点からみた仕事と医療用のウィッグとの問題

同センターだけに限らないが、いつも残念に思うのは、このようなアンケートを実施する際に、女性患者としての視点があまり重視されていないこと。本来的にいえば、同じ職場復帰でも男性と女性とでは、家庭や職場で置かれている立場によって、時間の使い方から違ってくる。さらに生理的に抱える問題・課題は根本から異なる。

男性はウィッグの存在についてカミングアウトしやすいという側面があるが、女性はなかなか公表できない。男性と違って、好奇の目にさらされる期間は長く、職場ではいつまでも目線が追いかけてくる。営業先や出張先でも、女性のほうが“気にされる期間”は長い。それがストレスとなって休職に追い込まれた女性もいる。

脱毛とは無縁の一般の人たちからすると、医療用のウィッグは、髪が再生するまでの帽子代わりというように軽く捉えることもできるだろうが、実際にウィッグを着用している身にとっては、それほど単純に割り切ったり、意識から切り離したりできるものではない。働き方にマイナスの影響が出ることも少なくない。

だからこそ、先のようなアンケートを実施するときは、もっとウィッグのことについても踏み込んで聞いてもらいたい。そしてそこから得た回答を国の施策に反映されるようにしてもらいたい。いま、ようやく各地の自治体で「医療用ウィッグ購入のための助成金」が出るようになったが、ごく一部の自治体であり国の施策ではない。

助成金は自治体が国に見切りを付けた格好で、助成金に踏み切り、それが全国の自治体に広がっただけ。購入には多額の費用が必要になるし、医療用ウィッグ製品に対する苦情も多い。医療や施策ががん患者の生活の中に入り込んで見直しを行なっていくなら、生活や仕事に不可欠なウィッグも、同一線上に置いてもらいたい。