患者さんの動作や気持ちを細かく捉えて製品化

医療の分野になぜ“医療用ウィッグ”というのが必要なのだろう?普通のウィッグとどう違うのだろう?もしかしたら、高額なウィッグを売るためのメーカーの戦略ではないかと、私自身が疑心暗鬼になっていた時期があります。

みなさんの中にも、そんな思いを抱かれている方が多いのではないでしょうか?少し意地の悪い性格かもしれませんが、ある事情があって会社を退社し暇な時間を持て余していた私は、「医療用のウィッグの必要性」について、いろいろ調べてみることにしました。「ネットがあって、何でも数分で調べられるのに、疑問をそのままにして文句を言うのは無責任」、私の周囲からそんな意見をもらったことも引き金になりました。

一般のファッション用として着用するウィッグは、機能性はもちろんですが、通気性や安定性、ズレの防止といった基本性能よりも、見た目の美しさやファッションとしての付加価値に重点を置く傾向があります。それは「健常な人の日常なら、ウィッグを着けてここまで激しい動作はとらない」という前提に立っていることと、消費者からの要望に応えた結果、現在のような一般的なウィッグがメーカー各社から売り出されているということが分かってきました。

ところが医療機関にかかっている患者さんは、“健常な人の日常動作”とはだいぶ異なります。たとえば抗がん剤治療で足元がおぼつかない、ベッドで寝ている状態なのにウィッグを着用していたくなる、長い時間着用しているので頭皮に汗をかきやすくなる、少しの動作でも苦労するので蒸れやすい、神経が立っていて敏感、ストレスが溜まっているので軽くて気にならないウィッグが欲しくなるなどです。

脱ぎたくても脱げない、だから通気性や軽さが大事

たしかに一般用のウィッグは、気に入らなかったり邪魔だと思ったりしたときは、脱げばいいし、気分やTPOでどうにでもできます。ところが脱毛で悩む患者さんは、そうはいかないのです。自由を楽しむウィッグではなく、自由になるためのウィッグを欲しているのです。医療用ウィッグの中でも通気性が良く軽量と宣伝している製品に「シルフィ」というブランドがあります。

これはウィッグの裏面、患者さんの頭皮に触れる人口肌の部分にスキンネットが仕込まれていて。ムレを少なくして衛生管理もしやすいように工夫されています。また通常の医療用ウィッグのように、人口肌にシリコンを使っていないため、硬さや重さの軽減にもなり、“髪がムレて治療の妨げになったり毛髪再生の邪魔をしたり”といったことの軽減にもなっていると言います。

当然、抗菌素材などは使用されているでしょうが、ネットがあるおかげでズレたりはしないのかというと、ズレ防止のためのワンタッチピンというのが別に工夫されているため、左右前後の身体の揺れに対しても、フィット感があって簡単にズレることはないようになっている設計です。

超立体縫製の技術がそれを強化しています。これでトータルなウィッグの重量は70グラム程度となっていますから、私がもっているファッション用などとくらべるとかなりの軽さです。他の医療用のウィッグよりも軽量というのですから感心しました。同じようにみえるウィッグですが、医療用には1つ1つに理由があり、患者さんの思いに寄り添った工夫がなされた結果であることを知りました。他のメーカーの製品も、素晴らしいものが多数あり、私はあらためて医療用ウィッグの存在意義を知った気がしました。