少し軽めの先生だけど、患者にとっては心地よい

医師、担当医、医療などというと、とても堅苦しく、コミュニケーションをとるのに大きな壁や垣根があるような気がしてしまうが、神奈川にある総合病院の私の主治医は、まれに見るようなやさしい先生である。

患者は誰でも、診察まで待たされるのはイヤ、でも自分に番がまわってきたときは、じっくり自分の話を聞いて欲しいと思っている。その先生は、とにかく患者の話を何でも良く聞いてくれることで有名な先生。

診察室に入ると、「どう?元気そうじゃない、顔色イイね、バッチリかな?」と~。第一声がそんな感じだから心がほぐれて、私の口も軽くなる。

あるとき、「先生、抗がん剤の脱毛で薄毛を隠すときのウィッグ~」と質問すると、「あ、医療用っていうのがあるよ。私は使ったことないけど(笑い)」と、気軽に返事を返して相談に乗ってくれた。

それだけではなく看護師に、「このあいだの××さん(患者)が被っていたの、なんて言うウィッグだっけ?」と、ウィッグのメーカー名まで教えてくれた。私の娘は横でやり取りを聞いていて、「あの先生ヤッコいね」とか、「軽すぎじゃない?」などと言うが、ちょっとうれしそう。

私も軽いとは思うが、それだから気がほぐれて安心もできる~。医師も人間で個々に性格があり、医療と名が付けば厳正なところ。安全第一でであって欲しいけれど、“軽い先生”のような垣根のない医師には名医が多い。

医師の思いは、診察室を離れても患者とともにある

名医ほど柔らかい物腰で、患者の話に耳を傾けてくれる~。そう思って考えてみると、名医というのは、患者の心をほぐして話しやすくすることが問診の第一歩であることを知っている。

あのときも、医療用ウィッグの私の問いかけから、“体調が良く、外出できるようになってきた私の日常”を、何も言わないのに読み取ってくれた。

「それじゃあ、そろそろ外出とトレーニングのプランを立ててみようか?やってみる?」と、踏み込んでくれた。私の日常にサポーターとして入ってきてくれたようでうれしかった。

医療機関に勤める医師は、通常は“診察室に入ってからの患者と、出て行くまでの患者との関係”で終わる。日常生活にまで寄り添ってくれるような話し方・接し方はしてこない。

患者としての勝手な言い分だが、この程度の気安さを医師の誰もが持ってくれていたら、患者はもっと積極的に自分を良くしようと努力するはず。気にかけてくれているという目には見えないコミュニケーションは、診察室を離れてもずっと患者の心の中でつづいているものだ。

そして私は、その先生が教えてくれた「シルフィ」というウィッグを被って散歩に出ている。娘と一緒に歩くときもある。娘は、「あの先生がすすめてくれたそのウィッグ、イイ感じじゃん。今度行ったら見せてあげなね」と。闘病中の患者は孤独になりがちだが、プロとして寄り添い支えてくれるのは医師しかいない。