医療という枠に固執しない“患者の悩みの緩和ケア”

地域医療がすすむ中で「緩和ケア」の体制も整いつつある。緩和ケアとは、ガン治療などの病気・闘病で苦しむ患者やその家族に対して、不安や悩み、痛みなど、自分たちだけでは拭いきることが難しい事柄について、全方位的なサポートをすること。またはその活動自体を指している。

医療という領域とは無関係な事柄にも向き合ってくれるサポート体制だ。当事者でなければ理解してもらうのがむずかしい脱毛や医療用ウィッグの悩みも、これで相談する先ができた。一般の人に「抗がん剤の副作用で脱毛した」というと、神妙な顔をされるだけなので、患者本人が明るく軽い笑い話にしようと思っても無理がある。

主治医に脱毛の話をしても、「また生えてくるから心配ないのに」という前提だから、悩みの相談なんてできる空気にはならない。医者は医療上の問題には答えてくれるが、心の奥にある苦しみや心理的な悩みには付き合ってくれない。患者は病院にいるときより、自宅に戻ってからのほうが不安は膨らむ。

緩和ケアにおける最近の変化と医療用のウィッグ

  • 数年前から“早期からの緩和ケア”の重要性が強調されるようになり、抗がん治療と同時併行で提供される緩和ケアも、珍しくなくなってきた。
  • 今後は、がん治療期からの緩和ケアが、同時並行的に提供されることも常識的な世の中になるだろう。
  • 「早期からの緩和ケア」は、患者本人はもちろん、家族を含めたQOL(生活の質)全体を高めることが大事とみなされている。
  • がんと診断された時点から、患者や家族に寄り添い、一見すると医療行為には当たらない事柄にも関わるケースが増えてきた。
  • 緩和ケアはすべての医療従事者により提供される。痛みやつらさだけではなく、回復の阻害要因とみなせば、何にでも向き合ってくれる。
  • 医療用のウィッグが範疇に入るかどうかは不明だが、その不安・不満を取り除くことが緩和ケアに相当となれば向き合ってくれる。

    家族だけに負荷をかけてしまう医療用ウィッグの悩み

    緩和ケアの概念が上記のように変わって、患者目線のケア態勢になったとはいえ、医療チームは悩みの相談室ではないから、脱毛や医療用ウィッグのことにどこまで関わってくれるかは疑問。しかしチームの医師や看護師が耳を傾けてくれるだけでもいい。家族だけに頼り切る閉塞感からは少なくても解放される。

    患者からすると医療とウィッグは不可分なものでも、医者や看護師からするとソレはまったくの別もの。脱毛についての質問くらいには応じてもらえても、どんな医療用ウィッグがいいか、選びの際の注意事項などは、患者の悩みの深さとは関係なく、切り捨てなければならなかった。多忙すぎるからだ。

    緩和ケアのチームは、そうした医療現場の医師や看護師とは異なるスタッフ。ウィッグの相談をしても道案内程度のことにしかならないだろうが、それでも患者にとっての安堵感はけた違いに大きい。自宅療養イコール、主治医から切り離された孤島のような場所とは意味合いが違ってくる。今後に期待したい。